化学療法による脱毛はなくなるか

摘要

毛髪は,頭部を日光や外界の刺激から保護する緩衝として生物学的な役割を果たすが，それ以上に社会的ならびに心理的な重要性が強い.毛 髪は,性別や年齢，職業や地位，特定の集団への帰属，その他なんらかの価値観を示す社会的象 徴としての機能を有するとともに，アイデンティ ティの確立や自己に対するbody imageを形成する心理的な役割を持つ. 化学療法に伴う脱毛(chemotherapy-induced alopecia : CIA)は化学療法による有害事象のうち，致死的ではないものの患者に大きな苦痛を強いる有害事象である.CIAは，患者に不安，抑うつ気分，ネガティブなbody image,自尊感情の低下，幸福度の低下をもたらす.またCIAは，乳がんに対する化学療法が標準化されて以降，今日に至るまで患者が苦痛を感じる有害事象として常に上位にあげられている.1984年の報告で，早期乳がん患者における化学療法の有害事象の中で最も負担となるものとしてCIAが挙げられている.