HTAの政策応用ー費用対効果評価から価値評価へ一

摘要

ここ数年間,オプジーボやキムリア，さらにはゾルゲンスマなど「とてもよく効き,なおかっとても高額」な治療薬が相次いで世に出たことで,「医療とオカネ」，「クスリとオカネ」をとりまく議論のムードは180度変わった.財政影響の大小にかかわらず,キムリアやゾルゲンスマのような超希少疾病の薬でも,単価が高ければ「なぜ高額なのか?」という説明責任として,オカネの話を求められる時代になった.注目すべきは，これら高額な薬剤のあり方を議論する際に，医療予算への影響を問題視する意見?保険適用の制限を主張する意見が，保険者のみならず医療提供者側からも出てきたことである.今までのように「全薬剤が保険でカバーされる」制度を聖域化し，保険料収入や診療報酬のみを考えてきた議論から，財政状況その他を考慮して効率的な医療システムを維持していく方法を考える方向へ世論が転換したことの意義は大きい（表1）.半世紀以上の長きにわたって日本では,「国民皆保険制度」という言葉が「すべての国民が公的医療制度に加入できる（実質的には，加入する義務がある）」状態という本来の定義を超えて,「その公的医療制度でほぼすべての医薬品が賄われる」状態として理解されてきた.増加する医療費に対しては,自己負担を増やす?保険料を増やすなど,皆の負担を少しずつ引き上げるかたちで対応してきた.