Martin Seah博士を偲んで

摘要

英国National Physical Laboratory（NPL）のフェローのMartin Seah博士が本年6月5日に79歳で逝去されたとの連絡に接し，大きな悲しみに襲われた。昨年5月に療養生活に入られたときに，ご本人から「さよならだ。日本を楽しむことができて，本当に良かった。ありがとう」というメールをいただいていたので，覚悟はしていたが，実際に事実を受け入れるのはとても寂しく，つらかった。Seah博士は表面分析の分野で大きな足跡を残された。電子分光の黎明期に，鉄鋼の粒界へのリンの偏析をオージェ電子分光法で示した論文は表面分析と材料開発を直接結びつけた歴史的な論文である。1983年にはWileyから「Practical Surface Analysis」をBriggs博士と共同で編集出版されたが，この本は表面分析の教科書として世界中で読まれ，1990年には，我が国でも合志先生と志水先生の監訳により，アグネ承風社から「表面分析」として出版された。