『家康秘薬』一権力者たちが追い求めた名薬

摘要

徳川家康は好学の将軍だった。古今の書籍を読破 し，特に戦記物『吾妻鏡』と薬学書『和剤局方』を 座右の書として，陣中にも持参したという。医薬に造 詣が深く，その知識は医者以上だった。研究熱心でみ ずから持薬を調剤する技術も習得していた。わたしは 以前，家康の愛用薬のひとつである「萬病圓」を薬 剤師の協力を得て，原典通りに復元したことがある。 そのとき家康の医薬に対する専門的な技量と執着を 知ったのである。と同時に，家康の不思議な行動に気 づいた。家康は，慶長7年（1602)と翌年の慶長8年（1603) に東大寺?正倉院を開封している。2年連続して，2 回開けている。日本の長い歴史のなかで，正倉院を2 回も開けた権力者は徳川家康，ただ一人である。わたしには奇妙な行動に映った。