物質循環とエネルギー有効利用を目指した植物生産システム

摘要

近年，多くの産業分野において，環境負荷を少なくするため，廃棄物の発生量を減らしたり，廃棄物を極力リサイクルする，いわゆるゼロエミッションに取り組む企業が増えている．農業分野においても，同様に廃棄物の排出を抑えた資源循環型生産システムの構築が重要な課題となってきている．従来，水田や畑など開放的な場での植物生産では，山林の下草や落葉，家畜やヒトの排泄物などの有機物を取り込hだ広い範囲の循環型生態系が長い年月をかけて構築されてきた．しかし近年の農業生産システムでは，生産性を高めることのみに重点がおかれ，植物生産の場を取り巻く環境への負荷には留意されてこなかった．その結果として，例えば過剰投与の肥料の流出による河川や湖沼の富栄養化，肥料の地下浸透による地下水汚染，施設栽培における夜間の補光が周辺の動植物の光周性に影響する光害，さらには地下水の過剰な汲み上げによる地下水枯渴，また世界的には不適切な灌漑による土壌の塩類集積，家畜の過放牧など，不適切な管理による砂漠化などが顕在化している．これらの問題解決の一助として，特に都市圏における農業では，原材料およびエネルギーの使用効率を高めたり，あるいは生産過程で生じる廃棄物を循環再利用することで，資源の使用量および廃棄物量を極力少なくすることが必須となりつつある．しかし現状の開放的な場での植物生産システムに物質循環型を導入し，同時に生産性を高めることには，多くの困難が伴う．しかし野菜や花卉のハウス栽培，工場的な植物やキノコの栽培，あるいは施設内での苗生産などの施設型植物生産システムは，従来の畑や水田での植物生産のシステムに比べると，より閉鎖された環境であり，特に半閉鎖環境である植物工場においては，物質循環型を導入し易い．ここで言う閉鎖とは，物質循環の観点から閉鎖されていることを意味し，エネルギーについては閉鎖されてはいないが，エネルギーについても極力系外からの入力を少なくする必要がある．