サイエンス·ロマン（20）―人類の誕生―畏怖すべき生命（5）生命と利己的遺伝子

摘要

無機地球における生命の最初の誕生に劣らず，自己複製による次世代誕生の世界も神秘に満ち満ちている。そこで，大雑把に「生命とは何か」と改めて考えてみると，①外からエネルギーをとり入れ，そのエネルギーを用いて代謝し，成長し，そして，②自己複製によって種の保存，維持，生長，繁栄を図る有機的な個体，と考えてよろしかろう。 ところが，動物行動学という学問の分野では，実は生命の中枢にある遺伝子は種全体の保存維持，繁栄を念願しているのではなくて，③遺伝子は，自己の遺伝子のみをできるだけ多く後に残すこと（これを適応度を高めるという）に必死であることがわかってきているという。つまり遺伝子は極めて利己的であって自分自身の遺伝子の繁栄のみを望hでいるのであるが，その道筋が幸いにして生命の求める経済合理性と合致しており，結局それが種の増殖と繁栄を支えるという結果につながったにすぎないというのである。 強いオスは当然繁殖のチャンスに恵まれる。 しかし，弱いオスにも自分の遺伝子を多く残すために面白い奇策を弄して授精に成功する生物も多い。