静かな北の晩節

摘要

秋田に住む古い友から手紙がきた。 今、札幌にいるという。 「一別以来絶えて久しくなります。 昨年は思いもよらぬ事が続出し、新年にかけて私の周りが変わりました。また、頭の働きが鈍くなってきたのが目立ちます。 従って、どなたにも近況報告をしておりませh。運悪くというか、妻が体調を崩して入院。 妻は末期の癌でした。 札幌の病院で治療したのですが、余り日を経ずして亡くなりました。 その後、私も体調を崩して入院。 退院後、この老人ホームに入所いたしました。 おそらく、現在の場所から家には帰れないでしょう。札幌から遠くない所ですから、折がありましたら、立ち寄って下さい」。 そhな内容が綴られていた。 気になりながらも、多忙にかまけていた。5月末、取材を兼ね札幌に出張した折、同氏を訪れた。 円山公園の近くにある綺麗なホームだった。 廊下添いに数十個の部屋があり、入居者の表札が掛かっていた。友人の部屋には愛妻の遺影と分骨壷、それに同氏の大好きな碁盤があった。 日本棋院認定5段の人らしく、碁盤は榧（かや）の柾目に拘った。全盛時代、天童の職人に数百万円の大枚をはたいて作ってもらったという。