電子顕微鏡によるアスベスト関連試料の分析

摘要

筆者は、1970年代の終わり頃から大気中のアスベスト測定や肺組織中のアスベスト測定に電子顕微鏡をもっぱら応用してきた。所属していた研究所には幸いASEMとATEMが備えられ、比較的自由に使用ずることができた。電子顕微鏡をアスベスト計測に応用するのに際しては、観察·計数標本の作製方法を様々工夫してきた。一般大気中の微量のアスベストを計測した値がどの程度の誤差を持っているのかも調べた。蛇紋岩採石場の岩石粉砕ホッパーから一定間隔の場所にサンプラーを置いて空気サンプリングを行い、PCMによる繊健状粒子の計数を行なうとともにTEMでアスベストの計数を行い、発生源から遠ざかるに従って距離の2乗に反比例して減衰している様子もとらえられ、TEM計数がかなりの精度を持っていることが証明されだ。一方、肺組織中のアスベストのATEMによる定量法も工夫した。高濃度のアスベスト曝露を受けて石綿肺、肺がh、中皮腫で死亡した北米断熱保温作業の肺組織および腫瘍部、胸膜プラーク部の組織中のアスベストをATEMで計数分析して、肺内から胸腔へかなりの量のアスベストが移動していることを明らかにした。このとき用いたのがカーボン抽出法であった。現在、石綿救済法の石綿肺がhの認定において、肺がhリスクを2倍に高めたことを示す一つの指標として肺組織中の石綿小体濃度が用いられている。通常、石綿小体濃度は位相差顕微鏡で計数するが、それによっても判定できない場合に、電子顕微鏡による肺組織中のアスベスト繊維数の定量が行なわれる。そのときの電顕標本作製はカーボン抽出法で行われる。