計算科学手法と原子力分野における応用：第10回 - 可視化技術，課題と今後の展望（最終回）

摘要

近年，データ，情報，知識を，見えるようにする，あるいは，わかりやすく表現するという要求は，様々な状況の中で生じている。 （可視化の）対象によって目的も，背景も様々である。 見えるようにするという要求自体を可視化してわかりやすく示すという目的もあれば，切実な要求のもとに行われる可視化や，何かしらの思想を持って行われる可視化もある。 このように，可視化は多様化し，技術論だけで一括りにすることはできなくなっている。 例えば，取調べの可視化においては密室での出来事を白日の下にさらす必要性を述べている。 その方法は，取調べの全過程の録画·録音という直接的なものであり，近年の情報機器の発展をもってすれば実現は難しくない。 この場合は，そのような対象に対して可視化を行うこと自体の意義が大きい。 一方，トレーサ粒子の可視化を利用したPIVのような計測手法においては，3次元データの高精度な取得が課題であり，可視化技術の向上に意義がある。 これらの例は目的が明確であり，「可視化から何がわかるのか」という点においては，「これこれがわかる」と言及できるものであろう。 しかしながら，このような可視化の意義が明確に示される例は減少し，視覚情報のもつ説得力のみに着目しているケース（可視化をすれば何かが示せるだろう，という程度）が目立つようになっている。 この傾向は，情報の可視化において指摘されることが多いが，近年，科学における可視化においても散見するようになった。 本章では，可視化という行為や可視化結果から何がわかるのかという問題意識を起点として，可視化において，人間の理解（あるいは，人間とのインターラクション）という側面を考慮するという動きがあることを紹介する。 なお，可視化の背景にある数理や可視化手法については，拙著の第1章と第2章を参照してほしい。