地球温暖化、海洋酸性化が日本沿岸の 海洋生態系や社会に及ぼす影響

摘要

日本近海は，南西部では世界有数の海流である黒潮に よって熱や様々な物質が北送されるとともに.北東部で は冬季の大陸からの強い寒気の吹き出しにより海面が冷却される。これらの要因により，日本海は世界で最も高 緯度に位置する造礁サンゴ生息域となっている一方，ォ ホーック海は世界で最も低緯度に位置する季節海氷域と なっている。そのため.日本近海では，亜熱帯生物-温 帯生物、亜寒帯生物が非常に狭い緯度帯に密集して生息 しており，生物種遷移の南北勾配が大きい。さらに.日 本近海の太平洋側には水深数千mに及ぶ日本海溝が存在 し，鉛直方向にも勾配の大きい複雑な地形を形成してい る。よって日本近海では地形，水深帯，水温.潮流，気 候区分といった環境が多様であり.これらの要因が日本 近海の生物多様性を高めている。現に，全海洋生物種数約25万種の1割以上が日本近海で確認されている"、》。 この海洋生物の多様性こそが，わが国の成熟した魚食文 化や，海洋観光の土台になっていることは言うまでもない。 一方，海は地球温暖化の主因である人為起源C02の 1/4-1/3程度，熱の大半を吸収し.地上の地球温暖化を 密かに緩和してきた3)~6)。この，地球温暖化の鍰和材 としての海の活躍はあまりH立ってこなかった。しかし 近年，努めて沈黙を保ってきた海ですら.悲鳴をあげる ような症例が過去の観測結果から幾つも示唆されるよう になってきた。例えば.海における地球温暖化影響とし て目下最も顕著な現象は海水温上昇であるが，ここ100 年間の上昇速度は世界平均で0.5"Cである。この上昇速 度は海域によって異なり，一般的に極域や高緯度域でよ り速いことが報告されている。現に.日本近海でも世界 平均を上回る速度で水温上昇が起こっており.この傾向 は将来的にも続くと考えられる。