超流動ヘリウム冷却の多様性-He II の熱伝達における過冷却および過熱He Iの役割-

摘要

私が低温の仕事を始めたのは，東京オリンピックの時である。既にヘリウム液化機を設置していた日大理工学部物理教室の安河内先生は，超電導の応用に情熱を注いでおられた。国際協力LCT（Large Coil Task）を成功に導くなど低温工学を牽引してきたが，1984年4月に亡くなられ，高温超電導の出現に奔走する姿を見ることはなかった。グループは，交流損失，超電導特性，冷凍，冷却など基礎的研究を継いだ。超電導磁石が登場した1960年代には，私も手製のコイルで，安定化の研究を始めていた。その延長として超流動ヘリウム（He II）の熱伝達に取り組み，混沌の中に何かを捉えかけた時は，定年だった。随想を書き始めると，再び，あのカオスに陥り，実験データにまで立ち戻って熱伝達特性を見直すことになった。その結果，何が分かったのか，について少し深入りして述べることに した。