微生物のシングルセルゲノミクス研究の現状と未来モリテツシ早稲田大学理工学術院創造理工学部国際教育センター〒162-8480東京都新宿区若松町2-2

摘要

自然界は様々な特殊な環境から成り，その中では 多様な微生物がその環境に合った特有な生態系を構 成し共存している"。このことから，環境中に生息 している多くの微生物は，その環境に適応した性質 や機能を持っており，環境や生態系を維持するため の重要な役割を担っていると考えられる。しかしながら，環境中の微生物の99%以上は難培養微生 物（未知,新種を含む）と言われており，従来の培 養技術に依存した解析ではこれらの微生物にァクセ スすることが困難だった。そこで，培養技術に依存 しないアプローチである，メタゲノミクスが考案さ れ，難培養微生物叢が保有している膨大な遺伝子资 源にアクセスすることができるようになった。これ により，難培養微生物叢の機能に加え，生態系や環 境中における微生物の影響などを理解することもで きるようになった。しかしながら，メタゲノミクスでは，様々な微生物のゲノムをミックスした情報が 得られるため，環境中に存在するどの微生物がどの 機能遺伝子を保有しているのかを特定できず，個々 の微生物の生態系内での役割を明確に知ることは不 可能であった。この問題を解決するためには，微生 物を単一細胞レベルで扱い，遺伝子情報にアクセス できる技術が必要とされてきた。このような背景の中，2004年にRoger Lasken率いる研究グループが 世界で初めて大腸菌の単一細胞からゲノムを解読す': ることに成功し，ここから微生物を対象とした単一 細胞研究が一気に開花した2>。これがシングルセル ゲノミクス（SCG)研究の始まりと言えるだろう。