♂と♀のバイオロジー　生物の多様な性分化の仕組み

摘要

雄と雌の2つの性が確立したことで，有性生殖による繁殖が可能となった．当然ながら生殖の目的は効率良く，多くの子孫を残すことであり，そのために生物は多様な繁殖戦略を獲得していったのである．そこには単純な個体間の競争だけでなく，雌雄の間での巧妙な駆け引きが発達した．2つの性の生物学的意義を単に精子と卵子の供給源として捉えるのであれば，生物の進化や多様性を説明するのは無理である．実は，この多様性は性を語るうえで重要なキーワードであり，生殖戦略だけではなく性決定のメカニズムも多様である．さらには，脳の性を基盤とする生殖行動や雌雄間の個体認識は種の確立過程で多様性を獲得せざるを得なかった．したがって，性に関わる様々な事象が多様性を有することは必然だったのである．本特集では性に関する研究を取り上げたが，それぞれの研究の裏側に見える多様性の存在を意識していただきたい．性の本質が見えてくるはずである．