サケによる地球生態系の生物多様性と物質循環に及ぼす影響

摘要

わが国最大の猛禽頬であるオジロワシ（Haliaeetus albicilla）とオオワシ（H. pelagicus），分布域を羅臼沿岸などの知床半島から北海道南部の遊楽部川（八雲町）へ変えつつある。遊楽部川はサケ科サケ属のシロザケ（Oncorhynchus keta）が自然産卵する北海道の中でも数少ない河川の一つである。 ワシ隼は，知床半島でスケトウダラ（Theragra chalcogramma）を主食としていたが，スケトウダラが漁業による乱獲で減少したため，シロザケのホッチャレ（産卵後死体）を餌として利用するために遊楽部川に飛来し集群するようになった。 すなわち，北海道でも数少なくなった野生のシロザケが，越冬するワシ頬の貴重な餌資源となっているのである。 カムチャッカ半島南端に位置するクリル湖は，北海道の支第湖と同じ貧栄養カルデラ湖で，性状および規模ともに近似する。 クリル湖には毎年100～300万尾，多い年で600万尾のベニザケ（O. nerka）が産卵回帰する。クリル湖周辺には，カモメ（Larus canus），ユリカモメ（L. ridibundus）などの海鳥類，アカギツネ（Vulpes vulpes fulva）などの小型哺乳類やヒグマ（Ursus arctosyesoensis）などの大型動物が餌資源としてベニザケを利用するために集群する。