LiV_20_4は重い電子系か？--μ~+SR法で見たLiV_20_4--

摘要

幾何学的フラストレーションの研究の歴史は長いが，未だに少なからぬ研究者の興味を惹き続けている．その魅力はどこにあるのだろうか？ 　 長谷田泰一郎，目片守両先生は15年前の著書「三角格子上の物理」の冒頭で，「三角格子には何か哲学的な句がする」と切り出している1）．平面を埋め尽くすことのできる最も基本的な構造「三角形」（ユークリッド幾何学の香り？），その各頂点にいろいろな磁性イオンを並べた結果，出現する多彩な基底状態．三角格子でほ，第1図のように最隣接格子点上にある磁性イオン間の相互作用が反強磁性的であることによって，磁気的フラストレーションが引き起こされる．反強磁性相互作用に従って隣接するスピンの向きを互いに反対向きに取ろうとすると，すべての格子点上のイオソを完全に満足させるような解が見当たらないからである．これはいわゆる哲学的思弁が幾つもの異なる結論の間を遽巡して容易に最終結論に至らないのに似ていなくもない．［もっと言えば，哲学者は「最終結論」を求めていない点でそれを求め続ける物理学者とは相容れない（フラストレーションな）関係である．が，これ以上哲学者をからかうのほやめておこう．］このような磁気的フラストレーションー多数のエネルギー的に縮退したスピン状態　 を伴うスピン系，特にHeisenberg量子スピン系がどのような基底状態を取るかほ，鋼酸化物高温超伝導体の理解にも関連する問題としていまだに今日的なテーマである.