ハエトリグモの奥行き知覚はピンぼけ像を利用する

摘要

対象までの距離，すなわち奥行きを判断することは視覚の重要な機能の1つである．奥行きを絶対的に判断するためのメカニズムは動物によってさまざまで，たとえばヒトを含む多くの動物は両眼視差（左右の眼の見え方の違い）を利用している~(1))．また，カメレオンなどはレンズの調節を，カマキリなどは運動視差（頭部を左右に動かした際にどれだけ対象が動いて見えるか）を利用することが知られている．そのほかに，原理的にはピンぼけした像のぼけ量（像がどれだけピンぼけであるかという情報）から絶対的な距離情報を得ることが可能だが~(2))，このようなメカニズムを持つ動物はこれまでに知られていなかった．ヒトはピンぼけの情報から対象同士の相対的な位置関係を大雑把に把握することができるが~(3))，絶対的な距離を知ることはできない．今回われわれの研究により，パエトリグモの一種Hasarius adansoniがピンぼけ像めぼけ量から絶対的な奥行き知覚を行うことが強く示唆された~(4))ので紹介したい．