場の量子論における時間

摘要

テレビなどで，よく「今度生まれ変わったら，あなたは何になりたいですか」という額の質問がなされるようだ．尋ねるほうも，答えるほうも，いい加減にやっているから何ということはないが，もし真面目に考えるとしたらこれは大変なことだ．不可能なことを仮定してものを考えること自体は，必ずしも全く無意味とはいえないであろう．問題は，その場合の状況設定をどうするかである．「クレオパトラの鼻が低かったら」という仮定は実現不可能であっても，そのときまでの他の状況は歴史的事実と同じと設定できるので，諭ずる対象となり得る．ところが「今度生まれ変わったら」という仮定の場合には，どういう状況設定をしているのか全く不可解である．「生まれ変わる」という以上，自意識が何らかの形で再生するものと仮定しているはずだが，記憶を抜きにしては自己の同定ができないであろう．記憶も再生されると仮定すると，それに整合する新しい状況設定をすることは極めて困難である．