『日本産哺乳動物毛図鑑-走査電子顕微鏡で見る毛の形態』

摘要

A4判ハ一ド力バ一の本書は，手軽に持ち運ぶことを許さないょうな重量感ある装丁で，中味は次の3っのパ一トで構成されていた：毛の基本構造，標本と観察方法，日本産哺乳類の毛のSEM(走查電子顕微鏡）像.皮革科学が専門の著者が北海道大学を定年退職後，10年以上をかけ撮影したコゥモリ類を除く日本産陸棲哺乳類の獣毛の膨大な図録集である.メインのパ一トは保護毛（上毛，刺毛，直毛などとも称される）?下毛双方表面の鱗片（毛小皮紋理，いわゆるキュ一テイクルと称される）と保護毛の最大直径部縦断にょる毛髄質 SEM像である.下毛鱗片の微細形態は本書で新知見として公表されたものも多いという.毛髄質縦断像は鱗片構造が損傷を受けた標本の同定では有効で（ペ一ジii），糞中に排出されたものや考古学的な試料などでの応用が期待された.「基本構造」のパ一トにはさまざまな専門用語の解説があるので，面倒がらずきちhと読み込むことが望ましい.また，このパ一トには，毛束や換毛周期などの解説もあり，それ自体興味深い読み物で，たとえば，夏毛?冬毛の毛髄質縦断SEM像の形態比較や直径の差異（ペ一ジ8から9）は，手触りの性質理解の助けとなった.しかし，冬毛の直径は夏毛のそれの約二倍なので，写真表示でもそのょうな比率を正しく反映された状態で示された方が，断然，理解し易いはずだ.次版で，是非，ご検討を.なお，そこではニホンジ力とュキウサギを用いられていたが，このょうな夏毛?冬毛の比較は，ほか動物では未検討という.今後，版を重ねるたびに，ょり多くの知見が蓄積されることを望みたい.だが，本書は図鑑である.したがって，まず，図鑑固有の楽しみ方である美しい図版?写真を心行くまで堪能したい.加えて，形態情報を動物種の生活様式や生息環境（水生，地下，冬眠，防御など）と関連付けて考察された記述は（ペ一ジix),ょり深い知的興奮を惹起することになろう.たとえば，イエネコとャマネコ類とでは毛髄質の形態がまったく異なった.こういった形態的多様性が，どのょうな進化の過程で誕生したのかを解きほぐして頂きたい.