大規模シミュレーションの産業応用：樹脂発泡を伴う混相流動シミュレーション技術の開発

摘要

本稿で紹介するシミュレーション技術は，ウレタンフォーム製品の製造過程を扱うものである．ウレタンフォームは，非常に高い柔軟性と断熱性を有する素材として，自動車座席シートのクッション材や窓枠の隙間充填材などとして利用されている．製品の製造は，金型に原液を注入後，発泡により成型させる製法であり，熟練を要する．この発泡現象をシミュレートするには，基本的な現象が多くの物質からなる混相流現象のために扱うべき方程式が多いことに加えて，化学反応に伴う気泡の発生と固化によって粘度と密度が急激に変化するため，計算に多くの困難を伴う．そのため，従来は密度の時間変化を設定するなどの近似モデルが提案されてきた．今回，車両用座席のシートパッドの成型における試作期間短縮と成型精度の向上を目的として，ウレタンフォームの型内形状を予測するシミュレーション技術を開発し，シミュレータとして具現化した．開発にあたっては，任意の形状や複合配合などに対応できるように，経験則を極力排し普遍的方程式に基づくようにした．なおかつ，現実的所要時間でのシミュレーションを可能にし，製造現場での実用性を考慮した．本稿では，筆者らが開発した樹脂発泡を伴う混相流動シミュレーション技術の背景，対象として取り扱う現象や技術の内容および解析事例について紹介する．