世界を映す鏡としてのオリンピックの記憶を継承する

摘要

本稿では，世界の光と影の両面を映し出す鏡としてのオリンピックに着目し，その記憶を継承するための文化的資料やそれらをコンテンツとするスポーツ·デジタルアーカイブ（SDA）の活用の可能について考えてみたい．SDAの定義，意義，活用可能性に関する議論は，新しいものである．SDAの対象となる資料には，オリンピック·パラリンピック大会など，国内で開催された各種の国際大会に関するさまざまな記録（写真·映像·文書等）から，大会の広報·記念となる印刷物やグッズ，競技用具·計測機器，競技場に至るまで，多種多様なものが想定される．アーカイブする資料を取捨選択した上で，どのようにデジタル化し，利活用に資する形で継承するのか．課題のいくつかは明らかになりつつある．近代オリンピックのスポーツ史的な意味は，スポーツの文化的資料を継承する意義を理解する一助となる．この意義を踏まえれば，SDAは，現段階で射程とはみなされていない資料を含めることによって，さらなる可能性を拡げることができるであろう．その可能性とは，時代や社会を越えて身体経験を共有するための資産とでもいえるものである．ここでは，そうした可能性がうかがえる教育実践についても紹介したい．