環境から生物に蓄積される重金属元素の動態解析

摘要

進化の歴史において，生物は環境にある元素の特性を活用し，より高度で複雑な生命機能を獲得してきた．さらにその元素を必要量確保するために，固有の元素濃縮システムも発達させてきた．本研究では，エラコに濃集されたバナジウムや，ヒザラガイの歯の主成分である鉄化合物に対して放射光を用いたXAFS法により非破壊状態分析を行い，生体内における重金属の存在形を明らかにすることを試みた．海で誕生した生物は自らを様々な環境に適応させ，深海から成層圏，極寒の極地から熱水のような高温域まで生息圏を広げている．同時に生物は周囲の無機環境にも積極的に働きかけ，生物にとって棲みやすい環境へと変化させてきた．例えば土壌は，風化された岩石に植物や微生物などの生物群が定着し，その生命活動によりさらに無機成分を変質させたものである．岩石は他の惑星にも存在するが，土壌は生命の星である地球固有のものである．現在の地球表層には，生命活動により直接的·間接的に生成された鉱物種や化学物質が，それを生み出した生物とともに渾然一体となり，複雑な環境を形成している．