終戦直後本多光太郎の訓辞

摘要

昭和20年（1945），私は東北帝国大学理学部物理教室の学生だった?そのころは戦争も末期に近く，級友はすべてが勤労動員され各地の研究機関や工場に散っていた?私は同じ大学の金属材料研究所に動員され弾丸が貫通しにくい鉄板の開発の手伝いをしていた?大学のある仙台市は，サイパン島の米軍基地から遠いので，安全だと思われていたが，この年の5月頃になると敵機が現れるようになった－　 そして，ついに7月7日には，100機以上のB29の空襲をうけ，古くて美しかったこの町は一夜にして灰燒に帰した．東一番丁にあった私が寄宿していたお寺の寮も焼け落ちたが，それよりも，桐の御紋章を正面に誇らしげに掲げていた理学部の建物が，中身はすっかり廃墟になり，煉瓦作りの外壁を残すだけになったのには，情けなく口惜しい思いをした．