日米間の特許係争と貿易摩擦－アモルファス合金の開発経緯

摘要

本稿は，米国が経済不況に喘ぎ，日本が戦後漸く経済復興を遂げつつあった1980年代に起こった日米間のハイテク闘争の話である．当時の日本は，科学技術立国を目指して国を挙げての努力が実を結び，半導体，スーパーコンピュータ，自動車などの基幹産業が育ちつつあった時であった．一方，米国は経済不況に見舞われ日本との貿易摩擦が大きな問題となり，“ジャパンバッシング”が激しい時代である．この時期に新素材として脚光を浴びていた「アモルファス合金」が日米間のハイテク紛争に巻き込まれた．当時の時代的背景が現在とは大きく違うとは言え，今再び日米間の貿易不均衡問題が取沙汰されようとしている時に，筆者が経験した開発過程で起った苦難について書き残して，最先端の研究を手掛けている研究者に少しでも参考になればと思い，敢えて筆を執った次第である．