日本初の技術コンサルタント 野呂景義（前編）

摘要

現在，日本は産業立国として著しい発展を遂げ，特に鉄鋼業は生産量，品質，コストを含めて高い競争力を有している．1915年に創立された日本鉄鋼協会は100年余にわたり，日本鉄鋼業の紆余曲折を経た発展を支えてきた．この日本鉄鋼協会の創立の中心になったのは，初代協会長に就任した野呂景義（図1）である．日本鉄鋼協会誌「鉄と鋼」の第9年8号（1923年10月）には，同年9月8日に逝去した野呂への追悼記事として，俵国一が野呂の生涯と業績を簡潔に綴った「野呂景義小伝」が記載されている．野呂は，多くの鉄鋼に関する操業技術，設備の開発·改善や様々な社会的，国家的事業で活躍し，さらに長期間にわたり企業の技術指導の仕事に携わった，現在の言葉で言えば技術コンサルタントであった．現在，企業を技術指導している技術コンサルタントには，あるべき倫理規範に立脚して，技術そのものと技術による経営の改善などを指導することが求められる．野呂の人物像や彼の成し遂げた日本における一貫製鉄所建設の推進，新しい鉄鋼技術の確立などは，すでに多くの技術史，経済史の専門家などによって解析され報告されている．そこで本小論では，まず野呂の業績を技術史的に要約し，それを基にして，今まであまり考察されていない技術者の倫理規範の視点で，野呂の技術コンサルタントとしての活動の評価を試みることにする．