日本におけるプロパテント政策の展開のもとでの企業の知的財産権戦略

摘要

グローバリゼーションの進展とICT化の急速な発達，すなわち第3次産業革命ともいうべき経済·社会の発展の中で，企業は新しい，しかも高度で専門性のある独創的な技術をもたなければ競争優位を維持できない。 独創的な技術とその蓄積，すなわち知的財産が企業の継続的事業繁栄の決め手となる。 このような知的財産は，長い時間と多額の資金，そして多くの知識創造型人材の投入によって，はじめて創出されるものである。 この貴重な知的財産を効果的かつ効率的に創出し，戦略的に権利化し，適切に維持·管理し，これを最大限に活用し，さらに，権利の侵害行為に積極的に対応するという一連の機能をまとめて知的財産権戦略といい，今や企業のもっとも重要な戦略の1つとなった。 マサチューセッツ工科大学教授のレスター· C·サローはその著『富のピラミッド（Building WEALTH）』の中で，次のようにいっている。 「第三次産業革命とともに，スキルと知識が，長期的な競争優位を維持するための唯一の源泉となった。 現代企業の成功と失敗のカギを握るのは，知的財産だ。 ……知的財産は，次第に，他社との競争手段の中心に据えられるようになってきた。 ……富を築くうえで知識がカギとなる世界で，資本主義が機能するには，明確で，簡単に執行でき，売却できる知的所有権が確立されていなければならない。 ……独占的な技術と，それに伴うスキルを開発することが，アメリカの労働者を，要素価格均等化による賃金低下圧力から守る唯一の方法だ。 アメリカで最も利益率の高い企業は，ある形態の知識を握っている企業だ。 ……IBMやAT＆Aはいまや他社との競争にさらされており，一般の知識の向上に役立つ研究資金を負担し，無償で配布できるほどの余裕はない。 いまや民間企業は，自社の発明によって巨額の利益を手にすることを期待するようになっており，そのための権利を積極的に守ろうとする。 民間の知識を誰もが共有した時代は終ったのだ」この著書の全般を通して，米国においても知的財産の重要性が一段と高まっている雰囲気がひしひしと伝わってくる。しかも，米国企業が日本企業を視野に入れた知的財産権戦略を積極的に展開していることが，痛いほど理解できるのである。 このように，米国が主導する形で，今や全世界がプロパテント時代に移行しつつある中，先に述べたように，日本においてもプロパテント政策が本格的に推進され，具体的施策が次々と実施されている。 日本企業は，この機を逸することなく，政府のプロパテント政策と連動させながら，しかも企業独自の工夫に基づく知的財産権戦略を構築し，国際競争力の一層の向上をめざして進hでいかなければならない。