西太平洋海山（上田リッジ）の変質火山岩の化学組成

摘要

太平洋西縁に位置する海山（上田リッジ）よりドレツジされた玄武岩の鉱物化学組成，および全岩化学組成の分析から，以下のことが明らかとなった。 1．本研究試料には，造岩鉱物として斜長石およびわずかな単斜輝石が認められる。 また，変質鉱物として，粘土鉱物, カリ長石およびリン酸カルシウムが生成している。 本研究試料に出現する粘土鉱物は，Fe－oxyhydroxide，スメクタイトおよびセラドナイトの混合物である。 また，空隙の少ない試料のスメクタイトは，Mgを多く含有するのに対して，空隙の多い試料のスメクタイトはMgに乏しい。 2．変質によって動きにくい元素の組成から，本研究試料は海洋島ソレアイト質玄武岩であると考えられる。 新鮮な海洋島ソレアイト質玄武岩の平均的な化学組成と比較して，本研究試料はK_2O，P_2O_5が変質によって付加しており，MnO，MgO，CaOが溶脱している。 K_2Oの付加はK-richなセラドナイトとカリ長石の存在を反映しており，P_2O_5の付加はリン酸カルシウムの存在を反映している。 MgOの洛脱は単斜輝石，カンラン石，ガラスの変質によるものと考えられる。 また，CaOの溶脱は単斜輝石，斜長石，ガラスの変質によると考えられる。 3. 新鮮なOITと比較して本研究試料のMgO含有量は，洛脱により3分の1程度になっている。 また，CaO含有量は同様に半分程度になっている。 このことは，海山における低温の熱水変質作用が，海洋のMg，Caの供給源となっている可能性を示唆している。 4．海洋に供給されたCaの多くは，炭酸塩鉱物として海底に沈殿することで，大気一海洋系のCO_2を海底に固定する役割を果たすことから，本研究の結果は，海山こおける低温の熱水変質作用がCO_2の固定に寄与している可能性を示唆している。 玄武岩から溶脱したCaのフラックスの下限値は，1.8×10~（-11）mol/g/yと見積もられる。