脳の形成におけるリーリンの真の機能は何か?

摘要

哺乳動物の脳では，機能·構造が類似した神経細胞が層構造を成している.この層構造は，神経ネットワークの形成と機能を効率化するために重要であり，その破綻は多くの精神神経疾患の原因(またはリスク)と考えられている.層構造の形成に関わる分子機構を解明することは，脳の正常な働きや，精神神経疾患を理解するために必須である.リーリン(Reelin)は，神経細胞の正確な移動と層構造形成に必須の巨大分泌タンパク質であり，その欠損は脳の構造と機能に重篤な異常を引き起こす.しかし，その具体的機能については，多くの仮説が出されてはいるが未だ決定打的なものはない.また，情報伝達機構や下流シグナル系に関しても多くの謎が残されている.本稿では，リーリンに関して「確実にわかっていること」と「推論の域を出ないこと」をできる限り明確に区別して，特に前者について述べたい.そして，リーリンの機能解明がなぜ進まないのかについても考えてみたい.特に，この分野にあまりなじみのない読者を対象に，やや原理的·純粋に論理的な側面を重視したいと思う.