先天性血栓性素因の診断および治療

摘要

未曾有の被害をもたらした東日本大地震発生から1ヶ月以上が過ぎょうとしているが，マイカーで寝泊まりする被災者の方々の「エコノミークラス症候群」の発症が危惧される.「エコノミークラス症候群」とは，「深部静脈血栓症（deep vein thrombosis; DVT)に伴った急性肺動脈血栓塞栓症」のことであり，長時間下肢を動かさないでいると下肢深部静脈の血流が鬱滞し，水分不足による血液粘度の上昇も加わり血栓が形成され，場合によってはその血栓が血管壁からはがれ血流に乗って肺に塞栓を起こす.長時間のフライトや整形外科手術後，災害時の車中泊においても発症リスクが高くなることが知られている.血栓症の発症には，このように環境的要因が大きく影響するが，一方体質的要因が影響して発症する場合もあり，いわゆる「血栓が生じやすい体質的要因」を「血栓性素因」という.血管の動脈硬ィヒ性病変の進展により血小板を主とした動脈血栓を起こしてくる糖尿病，高血圧， 高脂血症などを「血栓性素因」と言わないこともないが， 一般的には動脈硬化性病変などがなくても血栓を形成し，くり返し起こしてくるような病態を「血栓性素因」として扱う.