Human T-cell leukemia virus type 1（HTLV-1）感染と肺発癌

摘要

目的：Human T-cell leukemia virus type 1（HTLV-1）はadult T-cell leukemia（ATL）の腫瘍ウイルスである一方，HTLV-1関連気管支肺病変（chronic T-cell bronchioloalveolitis）も生じ，肺胞および呼吸細気管支における慢性炎症の原因になる．今回，HTLV-1による肺癌発生の可能性を探るために，HTLV-1キャリアに生じた肺癌の特徴をcase-control studyで解析した．方法：熊本大学において2005年から2008年に手術を施行した381例中，212例に血清中のHTLV-1抗体を検査した結果，8例（4%）がHTLV-1陽性，204例（96%）が陰性であった．HTLV-1陽性のそれぞれ8例に対して，陰性症例より手術日に近い順から性，年齢（±3歳），喫煙歴をマッチさせた症例を3例ずつ選hだ．HTLV-1陽性例と陰性例の組織学的差異および肺癌家族歴を検討した．結果：HTLV-1陽性8例中6例はbronchioloalveolar carcinoma（BAC）であり，その他の2例はBACを有する腺癌であった．一方，HTLV-1陰性の24例中BACは6例，BACを有する腺癌は7例，BACを有しない腺癌は9例，扁平上皮癌は2例であった．HTLV-1陽性症例のBACの頻度（6/8例，75%）は陰性症例の同頻度（6/24例，25%）より有意に高く（p=0.01），また陽性例のBACを有する症例の頻度（8/8例，100%）は陰性例の同頻度（13/24例，54%）より有意に高かった（p=0.02）．2親等以内に肺癌患者を有する頻度はHTLV-1陽性症例では4/8例（50%）で，陰性症例の7/24例（29%）よりやや高かったが有意差はなかった（p=0.28）．結語：HTLV-1は肺胞および呼吸細気管支に慢性炎症を生じるのみならず，BAC発癌の腫瘍ウイルスである可能性が示唆された