高齢心筋に対するIschemicpreconditioningの心筋保護効果とその有用性に関する検討-成熟心筋との比較における基礎的研究一

摘要

Ischemicpreconditioning（IPC）は実験的にも臨床的にもその有用性が証明されているが，高齢心筋に対するその効果は不明である．今回われわれは，高齢心筋のIPCの効果を成熟心筋と比較した．高齢家兎（＞135週，体重3～7kg）18羽，成熟家兎（15～20週，体重3～5kg）18羽の計36羽を用い，以下のように分類した．①虚血なしの単純清流心（対象群，n＝6），②30分の虚血後，120分の再灌流を行った群（虚血群，n＝6），③30分の虚血直前に5分間の虚血と再灌流を付加した群（IPC群，n＝6）の3群間で心機能面，梗塞範囲から検討した．高齢心筋，成熟心筋ともにIPC群では，虚血後の心機能回復は，改善傾向を示したが，高齢心筋では，むしろ回復が遅延した．しかし，高齢心筋では，冠灌流量はむしろ良好に維持されていた．心筋梗塞の範囲は，成熟心筋では，対象群1.0（+-）0.3％，虚血群32.9（+-）5.1％，IPC群14.9（+-）1.3％，高齢心筋では，対象群1.06（+-）0.6％，虚血群37.6（+-）3.7％，IPC群18.9（+-）2.7％で，成熟心筋，高齢心筋ともにIPC群では有意に梗塞範囲を縮小した（各々p＜0.01，P＜0.001）．更に，成熟心筋，高齢心筋ともに梗塞範囲とdevelopedpressureとの間に強い相関関係が認められた（成熟心筋の相関係数（r）：0.934（p＜0.001），高齢心筋のr：0.875（p＜0.001））．以上より，①高齢心筋におけるIPCの心機能改善効果は成熟心筋と比べて不良で，且つ120分間の再灌流経過中に増悪すなわち心機能改善効果が減弱すること．②これに反して梗塞領域縮小効果は成熟心筋と同等であること，が結論づけられた．