温泉，海洋環境等からの難培養性新規微生物の探索と その資源化に関する研究(平成24年度日本微生物資源学会奨励賞受賞）

摘要

微生物学は「培養」を基礎に発展し，現在に至る.90年代以降になると，分子生物学的手法の導入によつ て生物多様性が頻繁に議論されるようになり，自然界 に膨大な数の微生物資源が眠っていることが明らかと なった(Barns et al"1994; Hugenholtz et al,1998; Ward et al., 1990).近年では.メタゲノム解析ゃシ ングルセル.ゲノミクスなどの開発.進歩により.難 培養性微生物の生理機能や生態的役割が議論されるよ うになつた（Edwards et al" 2006; Venter et al" 2004; Zhang et al, 2006).しかし，それぞれが万能な技術 とはきえず，各々に利点と欠点がある.例えば，培養 技術によって得られた微生物は原則，保存、分譲が可 能であり.永続的に研究を行なう上で培養法は有効な 手段である.しかし，分離、培養に多大な労力を要す る上.供試する培地の組成に大きく依存することから. 培養できない微生物が存在する.分子生物学的手法は 多検体を同時に処理することが可能であり.微生物群 集全体の掌握には適しているが，系統分類学的位置が 明らかになるのみで，微生物の生理機能や生死を把握 できない難点がある.ゲノミクスは培養困難な微生物 に対してアプローチが可能となる一方で，铸型となる ゲノム資源（特に完全長ゲノム）の品質を維持して保存、分譲することはほぼM難であり.継続して研究、 開発する上での大きな障壁となる.これは身近な試料 であればさほど問題にならないが.ァクセスの闲難な 試料，環境変化を伴う試料となれば徐々に影響は拡大 する.故に，それぞれの技術が共に発展することが重 要である.その中で，永続的な微生物の有効利用の点 では.微生物を培養可能にし，安定して保存、維持す ることが最善の方法であり，難培養性微生物をいかに 培養、保存可能にするかは現代の大きな課題と言える. 一般に.難培養性微生物と言うと培養不可能な微生物だけを想像しがちであるが.概念には2種類ある. 1つは（少なくとも現在の技術では）培養不可能な微 生物であり，もう1つは分離、培養の困難な微生物で ある.そして.後者については.資源化（リソースィ匕） の余地を多分に含hでいる.難培養性微生物の資源化 は応用研究の重要な微生物資源となるだけでなく ，そ こで得られた知見は新たな難培養性微生物取得のため の有益な情報となり得る.そこで，本研究では，温泉 および海洋環境を中心に新規の難培養性微生物を探索 し，資源化することをH的とした.