被覆肥料の溶出速度に及ばす土壌水分の影響

摘要

畑土填での被覆肥料の溶出を評価するときに考慮しなぐてはならない，土壌水分と塩類濃度の影響について検討するため，熱可塑性樹脂被覆複合肥料を用いて，土壌水分を非常に低いレベルまで設定して溶出試験を行った．浸透ポテンシャルを加えた土壌水分ポテンシャルを水蒸気圧に換算し，さらに飽和水蒸気圧下の温度へ変換して溶出モデル式に当てはめ，溶出率の推定値と実測値を比較することにより，土壌水分と溶出速度の関係を検討し，次の結果を得た．1）畑土壌中における成分ごとの溶出速度は窒素，カリウム，リソ酸の順に速く，いずれも溶出モデル式での溶出シミュレーションに適用できた．2）土壌の含水比が0．186kg kg~(-2)（最大容水量の40％に相当）では，溶出速度の実測値は土壌水分が十分にある条件での推定値と一致し，この時の土壌水分ポテンシャルは最大で0．7MPa程度であった．これより低い土壌水分条件では溶出速度は低下していき，含水比が0．023kg kg~(-1)（最大春水量の5％に相当）で水分ポテンシャルが100MPa以上でほまったく溶出しなかった．低水分条件での水分ポテンシャルのうち，浸透ポテンシャルの影響ほ小さいので，溶出速度に関与するのほ主にマトリックポテンシャルであると考えた．3）土壌水分ポテンシャルを土壌中の水蒸気圧に換算し，さらに温度条件に変換して，土壌水分条件ごとの溶出をシミュレートした．溶出推定値と実測値を比較した結果，低水分条件下の溶出実測値は推定値よりも低く，水蒸気圧以外の要因が溶出速度の抑制に関与していることが示唆された．これは土壌溶液の拡散速度の低下により，溶出した溶液が被膜上で停滞したことの影響と考えられた．