水田生態系に生息する水生昆虫類の生態と保全

摘要

水田は日本で最もなじみ深い農地の一つである. 多くの人は，『水田=コメを生産する農地』と想像 するかもしれないが，コメを生産すること以外の多 面的機能として，水田には生物多様性保全の機能があることも指摘されている（守山1997, Natuhara 2013).つまり，コメを生産することは農業従事者 や消費者の生活に貢献するだけでなく，生物多様性保全にも貢献するということを意味する.水田は， 人が毎年同じ場所、時期、期間に水を貯めて管理し ている水域の1つと捉えることができる.そのため， 湿地に棲む鳥類，爬虫類，両棲類，魚類，昆虫類な ど多岐にわたる動物群の安定的な住処にもなつて おり，これが代替湿地と言われる所以である（Fasola and Ruiz 1996, Elphick 2000, Natuhara 2013).水田 はいわゆる里山環境に含まれる.里山に目を移すと， 水田以外にも溜池，河川，雑木林などの様々な環境 がある.これは，生息環境の選好性が異なる種々の 生物が生息できる条件を備えることとなり，結果的 に生物多様性を高めると考えられている.水田に棲 む水生生物に着目すると，水田以外にも，水を引く ための溜池や河川といつた水源があることで，必然 的に湛水期間の異なる水域が狭いェリァ内にモザ イク状に配置されることになる.そのため，水田か ら水がない時期には溜池や河川に移動（避難）する ことが可能となり，さらに水田によってその湛水期 間が微妙に異なることも多様な生物の住処を提供 する観点から重要なことである.