競走馬におけるニューモシスチス肺炎の1例

摘要

ニューモシスチス肺炎は、免疫低下状態の動物が日和見感染する、呼吸器感染症である。ゥマにおい ては、ニューモシスチス肺炎は主に子馬に認められ、しばしば急速に悪化する。症例のサラプレツド競走馬（3歳、牡）は、3週間にわたり呼吸器症状を呈し、抗生剤を用いた治療に反応しなかった。剖検では 肺において、黄褐色で多発性の硬結病変が散在性に認められ、鏡検では、膠原線維の増生により肥厚し た肺胞壁と、炎症細胞の浸潤が観察された。グロコット染色下では、Pneumocッstis carlniiのシストに似た 形態を持つ黒褐色の酵母様構造物が肺胞内に多数認められ、剖検前に採取された気管支肺胞洗浄液 (Bronchoalveolar lavage fluid, BALF)においても、同様の真菌を貪食したマクロファージが観察され た。また、BALFと肺組織のサンプルを用いてNested PCRを実施したところ、ニューモシスチス属に特異 的な増幅産物が得られた。18S rRNA遺伝子配列に基づいた系統解析では、BALFから得られた菌体は、多 種の動物から分離されたニューモシスチス属と関係があり、特にフエレツト由来のRom力"と近縁であ ることが明らかとなつた。今回報告する症例は、慢性肺病変を伴う若馬において認められた、希少な ニューモシスチス肺炎例である。