ニコチン酸受容体の同定と治療薬としてのニコチン酸

摘要

心疾患や脳血管疾患は，がhについで日本人の死因のトップに位置し，そのぅ0％を占める．これらの疾患の発症や進行には食生活の欧米化や運動不足，喫煙などの生活習慣が大きくかかわっていることは周知の事実である．高脂血症は冠動脈疾患の危険因子の一つであり，食事や運動療法で改善が見られない場合，高脂血症治療薬による薬物療法が行われることになる．高脂血症治療薬は，その作用メカニズムから数種類に分類されるが，治療期間が長期に及ぶため，副作用や相互作用などの問題も多い．田口によってすでに紹介されたが，ニコチン酸（NA）は40年以上にわたって高脂血症治療薬として臨床で使用されてきた．NAは，HDLを増加させ，VLDL，LDL，トリグリセリド（TG）を減少させることによって心臓血管の危険因子を正常化させ，心筋梗塞後の死亡率を有意に低下させる．薬理効果を得るためには高濃度のNAが必要であり，強い副作用の顔面潮紅（flushing）の問題は無視出来ない．脂肪組織中で脂肪分解（lipolysis）を抑制することが主な作用と考えられているが，長い臨床使用にも関らず，そのメカニズムは完全に解明されているとはいえない．NAに対する特異的なGiタンパク質共役型受容体（G_i－protein．coupled receptor）が脂肪細胞で想定され，その活性化によって脂肪細胞における脂肪分解が阻害される可能性が報告されたが，明らかな証拠は示されていなかった，タンパク質と共役したニコチン酸受容体（NAR）が最近発見され，さらに，コレステロール（CH）逆輸送系への関与が解明されて，NAによる脂質低下の調節メカニズムが次第に明らかになってきた（図1）．今回は，同定されたNARの性質，脂質代謝への影響ならびに治療薬としてのNAの今後について，Karpeらの総説を中心に紹介する．