西日本におけるクロッノナメクジDerocsras sp.(真有肺目： 柄眼亜目：ノコゥラナメクジ科）の新分布記録と生殖器形態

摘要

ノコゥラナメクジ科Agriolimacidaeの種は，ヨーロッパ，小アジア，ロシアなど北半 球の温帯-亜寒帯に広く分布するが，現在では人類の移動に伴い南、北アメリカ，南ァフ リカ，オーストラリア-ニュージランドにも分布記録が知られている（e.ざ.，Pilsbry, 1948 ；Burch, 1962; Smith, 1992; Cowie, 1997; Herbert, 1997, 2010; Barker, 1999; Herbert & Kilburn, 2004; Simone, 2006; Stanisic" al, 2010)。ノコゥラナメクジ科は，Wiktor & Likharev (1979)によりコゥラナメクジ科 Limacidaeとの差異を明確化された。ノコゥラナメクジ科ゃコゥラナメクジ科に所属す る属種は共に，外観では呼吸孔が外套循の右側面後方に位置することや，通常は钦体背面 の中程から後方にかけて明瞭な稜角があること（一部の種には稜角がない場合がある）が特徴である。ノコゥラナメクジ科がコゥラナメクジ科より区分された主な特徴は，（1)足 溝により2つの側（外）葉と中央の中葉に分割される足裏（摭）において，中葉に複数の V字状のやや曲がった溝が認められること（コゥラナメクジ科の中葉の溝は直線的である）， (2)消化管の配置では，消化管の中間付近で屈曲（ループ）した後に後方に延び，体後端 部で屈曲（2回目の屈曲）した後に前方に向かい肛門に至る力s',コゥラナメクジ科では消 化管の最初の屈曲よりも，2回目の屈曲の方が体前方に位置し，異なることとされる (Wiktor & Likharev' 1979)。ノコゥラナメクジ科は世界で6属120種とされる力く (Wiktor, 1999 [2000]),我が国で はノナメクジDerocems varians, ノノヽラナメクジD.leave,ベージュィロコゥラナメク ジD. agreste,ャマコゥラナメクジ".monticolaなど少数種のみが記録される（Kano, 2001,湊'村山，2005;早瀬'他，2016)。近年，西日本各地ではこれまで日本国内で知 られていなかったコゥラナメクジ類が確認されており，矢野（2007)，福田（2009)，增田 (2014),湊'他（2016)などの報告がある力、これらのコゥラナメクジ類はコゥラナメク ジ科などに位置付けられていた。筆者は本種群の試料を収集して検討した結果，ノコゥラ ナメクジ科所属の単一種と推定されたので，以下に新分布地，生殖器形態の記録と共に報 告する。なお，文中にあるMCは筆者保管の標本登録番号である。