浮稲の光合成と物質生産に関する研究

摘要

浮稲は主として東南アジアのバングラデシュ，タイなどのデルタ地域で栽培され，それらの面積は世界の稲作の約10％と推定されている．籾収量は深水と無肥料などの劣悪環境下で栽培されるためヘクタール当り約1トンと極めて低く，熱帯の潅漑稲作における収量のわず1／3程度である．浮稲の最も特徴的な特性は水位の上昇に見合って草丈を増加させることである．したがって，浮稲に関する研究においては外部形態の変化の特徴や節間伸長の機構を解明しようとする取り組みが数多く行われてきた．一方，浮稲の光合成と乾物生産の面の研究はほとhど皆無であった．これらの熱帯地域では将来も唯一栽培される作物であり，浮稲の生産力を高め，安定した生産技術を確立することは熱帯農学の重要な使命である．一連の研究は浮稲の光合成と物質生産について，生長関数，光合成炭素代謝および窒素利用効率などの面から深水適応性を総合的に解明し，浮稲の生産性向上の学術的、技術的基礎を明らかにしようとしたものである．