イチヨウの繁荣と衰退

摘要

7月号で，中国南西部に残つたイチヨウは千年ほど前に曰 本へもたらされ，元禄時代に出島経由で世界に拡がつていつ たと述べた。一方，地質時代の中生代には世界中で繁栄し， よくいわれるようにイチヨウは恐竜と共に繁栄したというの であるが,その証拠は何であろうカゝ。それは，図-1に示さ れるように，アフガニスタンのイシュプシユタの1.9億年 前と推定されるジュラ紀前期の地層から発見されている化石 で，その葉の形は切れ目の深いことを除けば，現存のィチヨ ゥと類似性が高い。化石としてよく残ることの多いイチヨウ の葉は，ほぼこの時期の前後に，北極圏のグリーンランド， 南アフリカ，南米アルゼンチン，そしてオーストラリアに 見られるように，ほぼ世界全域に拡がっていた。ただし，そ れより先に遡ると，古生代末のペルム紀に見られるトリコピ テイスTrichopiyaceae力Mチョウの祖先の候補者として挙げられている力5，そこになると議論は分かれ，それほど明確で はない。そして，繁栄の極を迎えるのは，ジュラ紀から白亜 紀で，その葉の形態は相当多様である。ところで，植物全体 の理解のためには，葉の他に生殖器官の理解が必要である力5， それらが一緒に見つかることはなかなかない。ところ力中 国河南省の義馬炭鉱の石炭層は地層が比較的浅いため，また， 化石が多量に見つかつていることもあり，両者が共存して 見られた。中国科学院周志炎博士はそれらを丹念に調べて，図-2のようにまとめた。大分イチヨウらしくないものも見 られる力，徐々に現生のイチヨウに近くなつていく。ところ が，白亜紀の末になるとイチヨウの葉の形態は，ほぼ現生の ものになっていく。それらが発見されている場所の-っは， 中国東北地方遼寧省錦州郊外の炭鉱であるが，興味深いこと にその場所の近傍では，始祖鳥の化石が発見されていること である。すなわち，イチヨウが成立した時期は，まさに恐竜 から鳥類が成立した時期でもあるのである。