千坂英雄氏の瑞宝中綬章受章をお祝いして

摘要

本学会元会長の千坂英雄氏は，平成16年春の叙勲において瑞宝中綬章の栄誉を受けられた。農業技術開発や環境保全に関する研究や教育に携わり，長らく氏の薫陶を受けてきた一人として心からお祝いを申し上げ，同時に氏の履歴，業績などの概要について若干ご披露申し上げたい。 農業技術研究所生理遺伝部生理科生理第6研究室の終焉の1980年代初頭，私がタイ王国雑草科学研究JICAプロジェクト（いわゆる野田プロジェクト）の短期専門家として，バンコクのカセサート大学棟の農業局数地内の真新しい研究所に数ヶ月滞在していたとき，室長の千坂氏から珍しく一通の便りを受け取った。 「霞ヶ関の技会事務局に召されることになったので宜しく。本便がBKKに着く頃には，この人事案件はオープンになっているだろうから，貴兄がこの人革具動を知ってたとえ他言しても問題にはならない，汁----云々」。 このために，この研究室は私が帰国するまでの2ヶ月近く研究員不在になった。 また，当時水田除草剤の薬害が問題になっていたとき，氏が米国留学で習熟したガスクロクロマトグラフ手法を駆使した薬剤分解物の微量定量解析研究に取組まれた。 氏は，綿密且つ詳細な実験計画を立て，その手順に沿って自ら土壌抽出した大屋のサンプルを，逐一丁寧にガスタロのポートに注射器で慎重かつ精力的に打ち込む氏の姿を見て大いに感心したものです。 一方では，氏は公私を問わず研究員の悩みについて同じ目線で一緒に考え（時にはアルコールを手にして），解決策を見出す努力をする特性の持ち主でした。 今も優しさに満ちあふれるその心根は変わりませh。しかしそのおかげで御自分の胃の手術をしたと聞き及hでいます。 こういう経験は，単に私だけではありますまい。 こうした垣間見る氏の属性は，研究室や研究所における技術開発研究や研究管理面で遺憾なく発揮された。 短、長期の社会的ニーズを的確に分析し判断して冷静、沈着に行動するなかで，多くの技官、文官を糾合して優れた業績をあげられた。 研究にあたっては，これぞ専門と自任しておられる雑草分野においては農業現場が抱える問題に常に焦点をあてて取り組み，暑い夏場の重労働である除草作業の軽労化技術の開発等に向けた先駆的研究を主導し，雑草科学研究者、技術者が活躍する学会や研究推進会議等の活動をリードしてこられた。 研究管理にあっては，それまでの豊富な研究の蓄積と広範な学識に裏打ちされ草しなやかで人情味あふれる実行力よって，研究体制整備とその推進を指導し，優れた人材の登用，配置に並々ならぬ心血を注がれた。 氏は，このように研究も研究管理も同一線上で透視、判断し，遂行した希有な人材といえます。 時に醸し出される暖かく包み込むような人間性は，氏の先輩、同僚、後輩等から分け隔て無く深い敬慕と信望を得ていることからも理解できましょう。