特集、ミトコンドリア ミトコンドリアDNAでみるブナ林の歴史

摘要

ブナは日本列島の冷温帯域に広く分布する発達した森林の構成種である．葉のサイズが日本海側で大きく，太平洋側で小さいことから別種と考えられてきた．しかし，葉と竪果のサイズに生態的連続性がみられることから同一種とされた．成熟し繁殖に参加するまでに40年近くかかり有性生殖を行う．遺伝的な変異は日本列島の北東へ進むに伴い小さい．ミトコンドリアの変異からは東北、北海道，西南日本太平洋側，九州北部の3集軌こ類型化された．西南日本の集団間の変異は大きいが集団内部では小さく，東北部日本では集団間、内部の変異も小さかった．東北部日本では成長が速く繁殖に参加できる樹齢も低い．これらは最終氷期最寒期に残されたブナ地域集団から，温暖、湿潤化した時期に分布を拡大したブナの歴史を反映する．この際，小動物によるタネの分散力も重要であった．