類人猿の行動と文化の多様性--特集にあたって--

摘要

動物の姿や性質について，ある個体を例にして話すことは比較的たやすい．ところが，ヒト（Homo sapiens）の場合にはある個人の特徴を代表させて語るといったことをしない．ヒトの外見や行動，生活様式はあまりにも多様であり，どの特徴をあげてヒトを記述したらいいのか判断に苦しむからである．ヒトと他の動物との問にあるこの大きな違いは，これまで主として文化の有無によって解釈されてきた．自然環境の制約を強く受けている動物は，種分化の過程で「ある環境に特異的に反応する特性」を遺伝的形質として種内で共通に推持することによって進化してきた．一方，自然との直接的な関係を脱したヒトは，地域や集団によって異なるさまざまな文化を創造し，それを学習し世代間で継承することによっておびただしい個体差，性差，集団差，地域差を身につけることになったというわけである．