果物の匂いは媚薬の香り

摘要

性行動は，自らの遺伝子を後世に残 すという生物にとっての大きな目標を 果たすために重要な行動である。生物 は，視覚，嗅覚，聴覚といったあらゆ る感覚を活用してパートナーを探し， 自分をアピールして異性のハートを射 止めなければならない。キイ口ショウジヨウバエ{Drosophila melanogaster)は，退伝芋的なさまさま な実験手法が確立されており，特定の 遺伝子の発現や機能を制御することも 容易である。遺伝学的手法を駆使して， 生物が外界から音や匂レ^などの情報を いかにして受け取り，脳で処理し，そ の情報をもとにどのような神経機構で 特定の行動が発現するのかという過程 を一貫して瞬斤することができる。ショ ウジヨウバエの性行動には，視覚，嗅 覚，聴覚，味覚の感覚情報が関わって いる。ォスが示す定型的な求愛行動が 昔から知られている。ォスはメスをみ つけると追いかけて前肢で腹部を触り， 片翅を開いて震わせラブソングを歌い， メスの生殖器を舐め，そして交尾を試 みるという一連の行動を見せるい。こ の間，ォスは肢で触ったり口吻で舐め たりすることで味覚を頼りに，相手の 種や性別，さらにメスが交尾を受け人 れる状態であるかを確かめる。ラブソ ングはメスが交尾を受け入れやすい状態にする2)。ォスのハエは周囲にライ バルとなるハエがいるかを視覚情報を 頼りに判断して交尾時間を変えること を示した研究もある3)。このように，ショ ゥジョゥバエの性行動にはさまざまな 感覚が関わつており，個体間の情報の やりとりを介して，パートナーを得る のである。