ハエトリグサの捕虫運動に関与する化学物質

摘要

ハエトリグサは，ダーウィンをして“世界で最も興味深い植物”と言わしめた食虫植物である．このハエトリグサの捕虫運動には，「記憶」ともいうべき生物現象が認められる．ハエトリグサの捕虫葉には感覚毛と呼ばれる3対のトゲがあり，これに30秒以内に2回ふれないと葉が閉じない．これは，葉の中に入った昆虫が動き回ったところを捕らえるためであり，ゴミなどによる「空振り」を防ぐ巧妙な仕組みである．われわれは，この高等植物の記憶現象が，感覚毛への2回の刺激によって分泌される糖鎖分子の段階的な蓄積で説明されることを発見した．分子の蓄積によって活動電位が発生する分子機構は，高等動物の記憶現象とよく似ており，両者の類似にも興味深い点が多い．本文では，記憶分子の発見から構造までを広く紹介する．