特集にあたって

摘要

大気汚染の問題は，古くて新しい問題である。わ が国では，かって，足尾や別子などの銅山の煙害や 高度成長期における四日巿喘息などが問題化したが，1960年代になって，煤煙規制法（1962)や公 害基本法（1967)，大気汚染防止法（1968)などの法 整備が進み，煤塵や硫黄酸化物などの汚染は改善し た。しかし，自動車の排ガスなどに原因する光化学 オキシダントの環境基準達成率は，現在でもきわめ て低く，今でも年間延べ日数で100数十件程度の 注意報の発令がある。一方，新興国の経済の発展に伴って，大気汚染が 地球規模の問題になってきている。ヨーロッパでは， 近隣諸国への越境大気汚染の問題が以前から顕在化していたが，近年，経済発展が著しいアジア各国で も国内の大気汚染が深刻化し，また国境を越えて近 隣諸国に影響を及ぼす可能性がある。わが国は，特 に西側に中国や韓国などの経済発展の著しい国があり，偏西風に乗って越境大気汚染の影響が懸念され る。そこで，本特集では，グローバル大気汚染の問 題に関して，東アジア地域を中心にその現状を紹介 するとともに，大気汚染による植生影響とその広域 評価法について取り上げる。また，トピックとして，光化学オキシダントの生成に関係する揮発性炭化水 素ガスの植物による吸収と放出についても紹介する。