大規模ゲノム情報から カイコの家畜化過程とその関連遺伝子を探る

摘要

カイコ(Bombyx mori)は，人間が高級 な衣料素材であるシルク（絹）を得る目 的で飼育されている昆虫である。長年飼 い馴らされてきたカイコは，現在では， 自ら餌である桑を探し回る能力は退化す るとともに，成虫になっても飛ぶことが できず，人間の世話なしには生きること が不可能な，究極に家畜化された生物と なっている。では，このような希有な性 質をもつカイコはどのようにして誕生し たのであろうか？ クヮコ(Bombyx mandarina)とレ、う野 外に住む昆虫を改良してカイコは生まれ たと考えられている。最も古い絹織物が 今から約5,000年前に中国で出土してい ることから，家畜化は少なくともその頃 まで遡ると推定されている。カイコの馴 化過程に関する考察はこれまでにも行わ れてきたが，科学的な情報は限られてい 丁こ。本目侖文["Complete Resequencing of 40 Genomes Reveals Domestication Events and Genes in Silkworm (Bombyx)では，生物 の設計図であるDNAの配列情報から力 ィコの馴化過程を解き明かそうと計画さ れた。カイコのゲノム解析は，日中の協 力で2008年に詳細な情報が公開された。