E型肝炎ウイルス

摘要

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス（HEV）の感染によって起こるヒトの急性肝炎である。 本病は衛生状態の悪いアジアやアフリカの発展途上国における主要な流行性肝炎であり、主にヒト糞便中に排泄されたウイルスにより経口感染し、多くは水を介して伝播（water－borne transmission）する。 近年では、チャド、スーダン、イラクなどでの大流行が報告され、また散発的な発生も頻繁に認められる。 欧米や日本などの先進国では、本病は輸入感染症（旅行者感染症）と従来考えられてきたが、海外渡航歴のないヒトにも散発的な発生が報告されている。日本では、国民20人に1人がHEVに対する抗体を保有していることも明らかにされている。 これらのことから、先進国でもHEVが常在していると考えられている。 最近、日本において本病の新たな伝播ルートとして、食物性伝播（food－borne transmission）が確認された。 すなわち、加熱不十分な豚の肝臓や野生動物（イノシシ、シカ）の肉や内臓を食べたヒトが本病を発症したとする間接的あるいは直接的な証拠がいくつか報告された。このことは、HEVがときに豚の肝臓や野生動物の肉肝臓に含まれ、ヒトがこれらを生あるいは加熱不十分な状態で食べることにより、HEVに感染する可能性を示している。このように、本病は動物由来感染症の一面を有することが明らかにされたことから、動物におけるHEVの感染状況の把握が防疫上重要である。