羊水塞栓症における血液凝固線溶系と補体系

摘要

羊水塞栓症はまれな産科合併症であるが,母体死亡の原因となる.血液凝固障害をきたし,止血に難渋 することがほとhどである.本学は2003年より日本産婦人科医会の委託を受け,「羊水塞栓症血清診断 事業」を行い,多数の症例の臨床情報および血液の解析を行っている.血漿を用いて血液凝固障害の検 討を行うと,消費性凝固障害に加え著しい線溶亢進をきたしていた.補体は発症後急激に低下している 症例もあり,急激な補体系活性化が認められた.この原因および相互の関連については検討中である. これらの病態から,治療に関して血液凝固障害に対しては，凝固因子の補充に加え線溶抑制療法（トラ ネキサ厶酸投与など），補体系活性化については補体系インヒビター（C1インヒビター）投与が有効で あると考えられる.羊水塞栓症は,約20,000?30,000分娩に1回程度と頻 度は高くないが,急激に呼吸循環動態が悪化し,母体死 亡につながる疾患のひとつである.典型例では分娩中, 分娩直後に呼吸困難,呼吸不全,意識障害,ショック?心停止,子宮出血などの症状を呈する.また,播種性血 管内凝固症候群（disseminated intravascular coagulation : DIC）を合併し止血に難渋するケースがほとhど である.しかし,確定診断のための症状や検査はいまだ 知られていない.従来,羊水胎児成分が肺血管に塞栓す ることで発症すると考えられていたが,現在は肥満細胞 や補体系の関与したアナフィラクトイド反応が主病態と されている.しかし,その原因も詳細には判明していない.本稿では妊娠時の生理的な血液凝固線溶系の変化 を含め,羊水塞栓症の典型的な症例の提示と本教室で 行っている羊水塞栓症発症時の血液凝固線溶系異常につ いて紹介する.