重症頭部外傷の血液凝固線溶系

摘要

重症頭部外傷に合併する凝固線溶異常は,患者をまさに「死戦期」に追い詰める激烈な併存病態である. その病態の本体は過剰なトロンビン産生に起因する播種性血管内凝固症候群であり,血管内皮細胞活性 化/傷害による抗凝固機構の破綻が凝固亢進に拍車をかける.頭部外傷では凝固亢進に伴う二次性の線溶 亢進に加え損傷脳からの直接的なtissue-type plasminogen activator (t-PA)の放出が過剰な線溶亢進 の原因となる.また,血小板機能低下も出血傾向を助長する.頭部外傷に特化した凝固異常補正の治療 指針は存在しないが，外傷性凝固障害の病態理解に基づく適切なdamage control resuscitationが重症 頭部外傷患者の「死戦期」からの脱出，および予後改善につながるものと期待される.外傷死の最大の原因は「頭部外傷」であり「出血」が それに続く.重症頭部外傷患者の約3分の2の症例で, 病院搬入時の一般血液凝固検査に異常値が認められるこ とが報告されており,頭部外傷に合併する凝固障害が 二次性脳損傷および制御不能の出血を引き起こし症例の 予後を規定していることは想像に難くない.