( S255) 陽電子消滅法によるα鉄における水素脆化を支配する欠陥

摘要

水素による鉄鋼材料の延性低下の機構解明には，変形過程における転位や空孔などの欠陥の同定とその挙動の理解が重要である。水素誘起欠陥の検出には昇温脱離分析法（TDS）が用いられ，有用な情報を与えてきた。例えば，α 鉄に水素環境下で10%歪みを付与し，その後200 °Cアニールを施すと延性が回復することから，200 °Cで回復する空孔型欠陥が水素脆化に寄与していることが示唆された1)。我々は陽電子消滅法により水素環境下でα 鉄を延伸した場合，十数個空孔サイズの空孔クラスターが形成·促進されること，局所分析により破断部からmm オーダーの広い範囲でその大きさや量が増加することを示してきた。一方，TDS と陽電子消滅法において検出される欠陥の挙動には不一致もあり，いまだ水素脆化を支配する欠陥種の決定までには至っていない。本研究では，水素脆化α 鉄試料で誘起された欠陥のアニール挙動や低温測定から，水素関与欠陥種の同定を目的とした。