世界の脅威=多剤耐性菌の地球規模

摘要

人類が過去半世紀以上にわたり，細菌感染症の治療のために発見，開発，実用化してきた各種の抗生物質 や抗菌化学療法剤などの抗菌薬に対し，多剤耐性を獲得した病原菌が世界中に広がり，人々の健康を脅かす 現実的な脅威となっている.これには，ヒ卜の医療現場のみならず畜水産現場においても抗菌性物質を多用 してきたことがその背景にある.新規の抗菌薬の開発は経済的な収益性が低いと見なされ，その実用化は大きく滞っている.近年，"最後の頼みの綱"（last resort)のひとつと見なされているカルバぺネム系抗菌薬と ともに，フルオロキノ ロン系やアミノ配糖体系などの他の複数の系統の抗菌薬に対しても，多剤耐性を獲得 した多剤耐性ァシネトバクタ一やカルバぺネム耐性腸内細菌科細菌（CRE)が世界を席巻しつつある.WHO (世界保健機構）や各国政府はこの事態を"人類の危機"と見なし，国際的な連携に基づく総合的な対策を講 じはじめている.